top of page
倍数性関連画像まとめ.png

研究紹介

研究1.倍数性に着目した医療の開発

研究1.倍数性に着目した医療の開発

 私たちの研究室では、細胞の倍数性に注目した新しい医療技術を開発することを目指し研究に取り組んでいます。

 倍数性の変化は様々な疾患と関連していますが、その中でもがんは特に顕著です。がんはもともと、ゲノムの異常により発生する疾患です。そしてヒトのがん(固形腫瘍)では全体の4割近くが多倍体化(ゲノム倍加)を経ており、肺がんや食道がんの一部のタイプでは過半数ががんの発生や進展の過程で多倍体化を経ていると報告されています。多倍体化したがん細胞は増殖の過程で染色体異常を生じやすく、このような染色体異常を生じやすい状態(染色体不安定性)は転移や薬剤耐性化などがんの進化を促進します。このため、最近の大規模な研究では、ゲノム倍加を経た多倍体がんは2倍体がんと比べて予後が悪いことが明らかとなっています。

私たちがヒトの肝がん手術検体を用いて行った検討でも、肝がんの約36%が多倍体がんであること、そして多倍体肝がんは特徴的な遺伝子発現や組織像を示し、2倍体肝がんと比べて有意に予後不良であるなど、多倍体化は悪性度が高い肝がんの一群を見分ける新しいマーカーとなることが明らかとなりました [British Journal of Cancer 2023]。さらに、現状では難しいがんの多倍体化の判定を、病理画像から人工知能を用いて簡単に判別し、がんの予後を予測することができるモデルも開発しました [特許出願済み]。この技術が実臨床の応用につながれば、がんの特性を倍数性に着目して見分け、特性に合わせた治療を検討することが可能になることが期待されます。

BrJCancer2023.png

また近年、「肺がん」や「大腸がん」など、がんが発生した臓器で治療法を考えるのではなく、がん細胞が持つゲノムの異常、つまり、がん細胞の特性に合わせた治療法を選択する戦略が開発されてきています。そのような中、多倍体がん・染色体不安定性を示すがんは特異的な治療法が未だない、取り残された難治がんとなっています。

 特に、ヒトの体内で普段から増殖している組織幹細胞は全て2倍体細胞であり、多倍体細胞の活発な増殖は通常はがんに特異的な現象であることから、多倍体細胞の増殖だけを選択的に阻害することができれば、副作用の少ない、多倍体がんに特異的な治療となることが期待されます。そこで現在私たちは、様々な観点から多倍体がん細胞の弱点を見つける研究を進めています。そして将来的には、多倍体がんに特異的な新しい治療法の開発につなげることを目指しています。

研究2.倍数性と病態との解明

研究2.倍数性と病態との解明

 がんの他にも、肝硬変、腎障害、心筋梗塞など様々な組織障害や加齢で多倍体細胞が増加することが知られています。しかし、多倍体化がこのような疾患の病態にどのように影響を及ぼしているのか、未だほとんど解明されていません。これは、多倍体化がこれほど高頻度に認められること自体があまり知られていないこと、そして倍数性に着目した研究に有用な実験ツールが少ないことなどが一因です。

 松本は、組織障害やがんの病態における倍巣性変化の重要性に着目し研究を進めてきました。その中では、多色レポーターマウスを用いることで多倍体細胞の増殖・挙動を可視化する独自のマウスモデルを確立しました。そして、細胞増殖に不利と考えられていた多倍体細胞が、慢性的に障害された肝臓では活発に増殖し、肝再生に寄与していることを明らかとしました [Cell Stem Cell 2020]。さらに興味深いことに、肝細胞は多倍体化するだけでなく倍数性を減少させることができる(2倍体細胞に戻れる)ことも証明しました [研究テーマ3 、Cell Stem Cell 2020]。多倍体肝細胞の増殖は慢性障害だけでなく、加齢過程における正常な肝臓の恒常性の維持にも寄与していることが分かりましたが [Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2021]、一方で、多倍体肝細胞の増殖や倍数性の減少は染色体異常が生じる頻度を高めることにより、発がんの原因となることも明らかとしました [Nature Communications 2021]。

 

 最近では、ゲノムの損傷はしばしば多倍体化につながり、多倍体細胞は多くの損傷を抱えること、一方で多倍体化は損傷が細胞に及ぼす影響を緩和していることも分かってきています [論文投稿中]。

 私たちはさらなる研究により、組織障害や発がんの過程で多倍体細胞がどのように振る舞い、周囲の細胞や障害臓器、そして疾患の病態にどのように作用しているのかを解明したいと考えています。

多倍体からの発癌.png

研究3.倍数性の制御機構や倍数性変化の意義の解明

研究3.倍数性の制御機構や倍数性変化の意義の解明

 ヒト体内では、一部の細胞は生理的に多倍体化し、それらは分化した細胞として通常は細胞増殖が止まっています。しかし、心筋梗塞では多倍体心筋細胞は細胞周期を回してより多倍体化することで心筋の再生に寄与していることが知られています。また研究テーマ2で書いた様に、肝細胞では多倍体化後も持続的な増殖能が保たれることを明らかとしました [Cell Stem Cell 2020]。このような多倍体細胞の挙動の制御や、そもそも一部の細胞がなぜ多倍体化するのか、その制御機構の多くは未だ不明です。

 

 また松本は、多倍体細胞が倍数性を減少させて倍体化し、組織再生や発がんに関わることを明らかにしました [Cell Stem Cell 2020、Nature Communications 2021]。生殖細胞ではない体細胞では、倍数性は増えることはあっても減ることがないというのがこれまでの常識であり、松本が示したこのような倍数性減少は常識を覆す結果でした。しかし、興味深いことに、最近ではこのような倍数性減少がヒトがん細胞や魚の皮膚でも生じていることが分かってきており、倍数性減少は種を超えて保存された事象であることが示唆されています。そしてがん細胞における倍数性減少はがんの薬剤耐性化に関わることも報告されています。私たちは未だ全く明らかとなっていない倍数性減少の機序など、多倍体細胞の制御に関わる分子機構や、そもそ多倍体化するメリットは何なのかといった、多倍体細胞の本質的な謎も解き明かしたいと考えています。

倍数性減少.png

​これらの他にも、倍数性に関わる新しい研究をいろいろと展開しています。

​最新の研究について興味がある方は、ぜひ松本まで連絡ください。

bottom of page